茂野「麺紀行」 第32回 竹岡式ラーメンの元祖「梅乃家」

小さめのドンブリに、溢れんばかりのスープと麺。どす黒い醤油のスープは凄いビジュアルだけれど、これが大人気の梅乃家のラーメン。そして、チャーシュー麺じゃなくてラーメンなのに大降りのチャーシューが5枚も入っている。オプションのトッピングは玉ねぎのみじん切り。50円追加すると、ご覧のように(上の写真)小山が出来るほどのボリューム。

梅乃家は千葉県富津市の竹岡という小さな漁港の町の、小さなお店である。かなり昔から地元の人や釣り人を相手にご商売されていた。30年ほど前だろうか、梅乃家が竹岡ラーメンとして口コミで人気が出てきたのは。筆者の出身の木更津ではその竹岡ラーメンはかなり有名だった。それから更に月日が経ち、ラーメンブームが巻き起こると、その梅乃家のラーメンはたちまち全国に名を轟かせた。

店内は昔の定食屋さんといった感じ。
取材翌日(日曜日)の行列。

前回の尾道ラーメンの回でもご説明したが、竹岡ラーメンにしろ、竹岡式ラーメンにしろ、当の梅乃家が名づけているわけではなく、梅乃家のファンや、マスコミがいつの間にかそう呼ぶようになった。但し、竹岡ラーメンは、元々梅乃家のファンだった方が自らラーメン店を経営し、その店の称号を「竹岡ラーメン」とし、商標登録しているので、梅乃家とは別モノである。

さて、梅乃家のラーメンがどうしてそれほどまでに有名なのかというと、そのつくり方と具材のユニークさである。今やネットで簡単に情報を仕入れることができるし、ましてこの梅乃家のラーメンの情報など何千件もヒットするから今更筆者が拙い説明するのもおこがましいが、敢えて申し上げるならば、そのユニークな点は以下である。

  1. 麺は乾麺である。
  2. スープはチャーシューの煮汁を茹でた乾麺の汁で割る。
  3. 乾麺は七輪で茹でる。
  4. 薬味は玉ねぎ。

筆者が訪れたのは10月の下旬、土曜日の夕刻だ。この麺紀行としては珍しく家族同伴。そろそろ薄暗くなる時刻なのだが、夕食には早いので、少し運動の為に竹岡の漁港を散歩した。梅乃家の前の国道127号を渡り、少し歩くだけでそこは小さな漁港なのだ。南に歩くと白狐川があり、かつて竹岡城があったとされる小山がある。風情のある場所で対岸の久里浜辺りの町の灯りがちらほらと見える。

ゆっくりと、約30分の散歩を終えて、さて、いよいよ梅乃家へ。我々の前に外で1人と、3人連れの2組が並んでいた。更に店内の入り口の辺りに3人順番を待っていた。待たされるかと思っていたら、タイミング良く5、6人がいっぺんに勘定を済ませて帰っていったので、10分くらいの待ち時間で店内に入ることが出来た。右上の写真のようにタイミングが悪いと30分以上の待ちが出来るらしい。

梅乃家の外観。まったく目立たない。しかし次々の来店がある。2階も客席になっている。
竹岡漁港脇の道。正面に城山。
白狐川河口の防波堤。釣り客がちょうど引き上げるところだ。
ラーメンの普通盛。これだけチャーシューが入っているので、かなりのボリュームがある。

店内は活気に満ち溢れていた。ネットで下調べしていると、ホール係はおばちゃんという情報だったが、どうして、たまたまこの日に限ってかどうかは分からないが、若い女性2人が手際よく注文を取り、そしてラーメンを運んでいた。
私はラーメン大盛りに薬味(たまねぎ)を追加、妻は普通盛のラーメンにした。チャーシュー麺も魅力的だったが、先客の様子を見ていたら普通のラーメンでもたっぷりとチャーシューが載っているので、敢えてチャーシューにしないほうがよいと判断した。それにしても、トレイにスープを零しながら運んでくるというのはネットで得た情報どおりだった。

さて、お味のほうはというと、その黒々としたスープは、醤油が煮詰まったような味。つまり塩分が多い気がした。しかし、色具合から受ける印象よりはあっさりしている。それはもちろん好みの問題。梅乃家に啓発されたいわゆる竹岡式ラーメンの後発店よりもシンプルな味付けかもしれない。この雰囲気にはこれがベストマッチなのだろう。トッピングの玉ねぎのみじん切りがたっぷり入ることで、塩分が調和して、それほどしょっぱくなくなる。

麺はもう少しコシが欲しいところ。これもまた長年人気を博していた梅乃家のベストなのだろう。分厚いチャーシューは味が濃い目。適度に柔らかく、しかし、とろーりというところまではゆかない程度。とてもおいしい。ばさばさのチャーシューが苦手な私だからチャーシューはこうであると嬉しい。チャーシュー丼にしてもおいしそうだ。我々が食べている間に食べ終わったお客さんがお土産用でチャーシューを買っていた。そのとき私もお土産に買おうと思ったのだが、帰るときにすっかり忘れてしまった。

評価としてはオリジナリティと、抜群に旨いチャーシューにはAだが、麺とスープは好みで賛否あると思う。でも、あのシチュエーションで食べるあの味は、間違いなく房州の名物であり、まだ食べたことのない方は是非一度体験されることをお薦めする。

取材日:2008/10/31

「梅乃家」
千葉県富津市竹岡401
電話 :0439-67-0920

国道側の入り口。 まったく目立たない。 もっと商売っ気を出してもいいのではさえ思ってしまう。