天高く澄み渡る空の下 ――
大地は豊穣(ほうじょう)の季節を迎え、いよいよ、蕎麦も収穫期です。
約三百年前、痩せた畑で粗放に作られるそばの茎は赤いため「そばの赤ですね」と称して貧しさの形容詞となりました。
現在、手入れの行き届いた畑で栽培される蕎麦の茎はわずかに紅をさしたほどの薄い緑色ですが、晩秋から初頭に収穫する秋蕎麦の茎は赤くなります。
これは、気温の低下により茎にアントシアニン色素が増えるためで、花が赤くなるのと同じ理由です。
落(おつ)る日の くぐりて染(そむ)むる 蕎麦の茎 蕪村
―――茜色の夕日が蕎麦の茎の間へ潜るように射し込み
まるで、蕎麦の茎を赤く染めているようだ―――
刈りあとや ものにまぎれぬ 蕎麦の茎 芭蕉
―――刈り取られた蕎麦の茎が夕もやの静寂に
包まれながら凛と地表に残って赤く息づいている―――
風雅人の芭蕉と蕪村の心を奪った蕎麦の茎が感動的な情景として鮮やかに詠(うた)われています。